広島高等裁判所 昭和47年(く)15号 決定 1972年7月03日
主文
原決定を取消す。
別紙記載の条件の下に被告人の保釈を許可する。
理由
本件抗告申立の趣旨および理由は弁護人高井昭美提出の抗告申立書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
所論は、要するに、被告人に対する頭書被告事件(以下本件被告事件という)について、昭和四七年六月二二日弁護人がした保釈請求に対し、原裁判所は同年同日二四日右請求は刑事訴訟法八九条三号に該当し、かつ諸般の事情により保釈することが相当でないとして、これを却下したが、本件保釈請求は右八九条三号の権利保釈の除外事由に該当しないから、これに該当するものとして右保釈請求を却下した原決定はこれを取消し、被告人の保釈許可決定を求めるというのである。
よつて、本件被告事件の記録を調査すると、被告人は、昭和四七年五月一八日藤本寛に対する暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の共同暴行の被疑事実について勾留状の執行を受け、同年五月二七日右藤本に対する刑法二〇八条の暴行罪により原裁判所に起訴され、同年六月二二日の第一回公判において、被告人は右暴行の事実を認め、検察官提出の証拠の取調べは全部終了し、次回公判期日(同年七日一〇日午後一時)に被告人の妻を在廷情状証人として尋問する旨の証拠決定がなされていること、右六日二二日の第一回公判終了後検察官から同日付で、起訴状記載の暴行の訴因、および罰条を暴力行為等処罰ニ関スル法律違反(常習的暴行)の訴因および罰条に変更することを請求する旨の訴因、罰条の変更請求書が原裁判所に提出され、右請求書の謄本は即日被告人に送達されていること、原裁判所が本件被告事件について、昭和四七年六月二二日付の弁護人の保釈請求を、刑事訴訟法八九条三号に該当し、かつ諸般の事情に照らし保釈することが相当と認められないとして、同年同日二四日却下する旨の決定をしたことがそれぞれ認められる。
しかして、訴因、罰条の変更は、刑事訴訟規則二〇九条四項に規定するところによれば、検察官はその請求書を公判期日において朗読しなければならないのであつて、右のように、単に訴因、罰条の変更請求書を裁判所に提出し、その謄本を被告人に送達しただけでは、その効力はなく、起訴状記載の訴因、罰条に変更はなかつたものと解すべきであるから、本件被告事件の訴因は、なお、起訴状記載の訴因である単純暴行であるといわなければならない。してみると、暴行罪が、その法定刑に照らし、刑事訴訟法八九条三号所定の長期三年以上の懲役又は禁錮にあたる罪でないことは明らかであるから、本件保釈請求は右八九条三号に該当しないのみならず、前記公判の経過等に徴し、同条所定のその他の権利保釈の除外事由にも該当しないものというべく、従つて本件保釈請求はこれを権利保釈の請求と見なければならない場合であるから、前記のように、これを裁量保釈の請求として却下した原決定は不当であり、本件抗告は理由である。
よつて、刑事訴訟法四二六条二項に則り、原決定を取消し、別紙記載の条件の下に被告人の保釈を許可することとし、主文のとおり決定する。
(栗田正 久安弘一 片岡聡)